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試写会「ヴィヨンの妻~桜桃とタンポポ~ [映画]

10月7日(水)   10月5日に御堂会館での標記試写会へ行ってきました。
この映画は、太宰治の同名小説を映画化したのもであるが、「ヴィヨンの妻」以外に随所に、太宰治の作品のエキスが散りばめていますので、どの小説の部分かを見つけるのも、楽しい見方ですね。

破滅的な太宰治の私生活を想起する映画です。今年は太宰治の生誕100年にあたるので、本件以外にも太宰治作品が映画化されます。(最後に記載)

小説家・大谷役の浅野忠信のセリフが聞きにくかったですね(字幕があればと思いました)。この映画は今年、第33回モントリオール世界映画祭で最優秀監督賞を獲得しました(これは字幕付)。主役の佐知役の松たか子は、初の妻役で、長いセリフもこなし、好演技でしたね。

副題の「桜桃とタンポポ」について:
 痛みやすいけれど甘みがあって愛される=桜桃(サクランボ)・・・大谷
 どんな環境にも対応して、誠実な美しさを持った=タンポポ・・・・佐知
ヴィヨンの妻.JPG

●ヴィヨンの妻桜桃とタンポポ

・2009年/日本/カラー/114分
・配給:東宝
・原作:太宰治「ヴィヨンの妻」
・監督:根岸吉太郎
・公開:2009年10月10日

【キャスト】
・佐知(松たか子)小説家を愛する妻
・大谷(浅野忠信)生きる事と闘う小説家
・巳代(室井 滋)小料理屋「椿屋」の女将さん
・吉蔵(伊武雅刀)小料理屋「椿屋」の主人
・秋子(広末涼子)バーのママ、大谷の愛人
・岡田(妻夫木聡)佐知を初恋する青年工員
・辻(堤 真一)佐知が昔愛した男、弁護士

【ストーリー】
大谷の子供時代の象徴的なシーンが最初に挿入される。鉄の輪を廻して、ピタッと止まれば極楽行き、少しでも戻れば地獄行きと言われ、大谷少年は勢いよく廻す。しかし最後に少し戻った。少年は何度も挑戦するが、少し戻った。(小説「思い出」の一節です)

昭和21年12月夜、大谷がハアハア息を切らして、自宅へ逃げ帰る。そして引き出しを捜し、ナイフを隠し持つ。佐知「御飯はおすみですか」、大谷「坊やは、どうですか」、と言っているところに、「大谷さん」と叫びながら、客がくる。

女は、ちゃんとした家があるのに、金返せと叫ぶ。大谷は「帰れ」と叫ぶ。女は椿屋の女将で主人の吉蔵も一緒である。金を返さなければ、警察に届けるという。佐知は驚いて「いらっしゃいませ」と挨拶する。大谷はナイフをかざして「刺すぞ」と脅し、逃げる。吉蔵はあとを追うとしたが佐知に邪魔される。「お入りになって、話を聴かせて」と言って、二人をボロ家へ入れる。

吉蔵に年を聞かれ、4つ下の26歳と答える。若いのに苦労で老けて見えた。そして椿屋の夫婦は、大谷との出会いから話し始める。

最初に大谷が椿屋に来たのは、昭和19年春。戦時中で闇の焼酎を出した。大谷さんに見込まれた。魔物である。
次に来た時の主人との会話、「人の書けない物を書く、小説家なんですね」。大谷「それは、けなしているのだ」と言って、いきなり高額な100円紙幣を出す。お釣は次まで預かってて、と言って帰った。彼から金をもらったのは、この一度だけだ。3年間飲み干した。

この話を聞いた佐知は、呆れて笑うしかなかった。今夜、5,000円奪った。集金した金を数えている妻を押し倒して、金を奪って逃げた。佐知は、また泣き笑いした。そして、警察へ届けるのを一日待ってくれと頼んで、夫婦に帰ってもらった。

翌日、佐知は子供を背負い電車に乗る。中吊広告に夫の小説が活字になっていた。中野の椿屋へ行った。女将さんに、当てもないのに「お金は、きれいに私が返します」ある人が金を届けます、「私が人質になって、店を手伝います」といって、店の掃除をする。そこに主人が帰ってくる。

そこへ3人の客が入って来たので、佐知が応対する。客「美人を雇いやがって」、名馬という。佐知は「名馬も雌は半値」といなす。客が座敷の子供を見て「子持ちか」という。女将さんは気転を利かせて「親戚から、もらってきた子」という。

佐知は店の人気者になり、チップをもらう。女将さんから「チップは全部あんたのものよ」言われ喜ぶ。

(これからネタバレします。これから映画見る人は読まないでね)
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(ネタバレします)

クリスマスの時期、三角帽とマスク姿の男と女が、椿屋に入ってくる。佐知は、それが大谷だと分かる。佐知は、大谷が帰ってきたので、会ってやってくれ、と主人・吉蔵に頼む。一緒の女の人には、私の事は内緒という。

吉蔵と大谷と連れの女が、外へ出て行く。残った佐知は、「飲みましょう、クリスマスだもの」と言って酒を飲む。「おいしい」と言うと、店の客は大喜びになり、盛り上がる。

しばらくして、吉蔵が店に帰ってくる。そして、5000円返してもらったという。これは先日の分で、それまでの分は、大マケして2万円という。佐知「返すので、明日からここに置いて」という。

自宅に帰ると、大谷が帰ってきて、泣く、「怖いんだ」。大谷は佐知に縋りつき、そのまま布団の上へ。翌朝、佐知は、いそいそと朝食の仕度をしている。大谷は、ぼそぼそと話し出す。「盗んだ5000円は、子供とお前のためだ。椿屋が警察に駆け込んだと思い、バーで派手に金を使った。不審に思ったママが金の出所を聞くので話した。ママさんに5000円出してもらった」
ヴィヨンの妻1.jpg

大谷は佐知がチップで貯めた金を鷲掴みして、食欲がないと言って出て行った。

椿屋に女が一人来て冷酒を飲む。女将さんが、「秋ちゃんで、大谷を訪ねてくる常連」と佐知に教える。酔いつぶれた秋子は、大谷の分も支払い、吉蔵に背負われて帰る。
ヴィヨンの妻2.jpg

閉店後、大谷が店に入って来て、「帰りませんか」

二人が帰宅しながら会話。家では会う事が少なかったが、椿屋で会う機会が増えて嬉しく幸せと佐知が話す。大谷「女には、幸福も不幸もないものです。男には、不幸だけがあるんです」という。佐知「あなた、女将さんと何かあったでしょう」、大谷「僕は、死にたくてしょうがない。神様が死を止めている」、吐く息、吸う息?匂う?。佐知「私には分かりません」

椿屋で出版社の社員が佐知の事を知らずに、大谷の批判をしている。そこに先輩格の矢島が現れる。矢島は時々金を佐知に届けていた(大谷が生活費を家に入れないので)。
若い岡田という男も客として飲んでいた。閉店の頃、雨が降ってきた。佐知「岡田さんが傘が無いと言うので、駅まで相合傘で送っていく」と店を出る。歩きながら、岡田は工員ですと自己紹介する。岡田「大谷さんのファンです。タンポポの花一輪が誠実」と話す。
電車の中で、辻に会う。辻「久しぶり」子供の年が2歳ときき、「こちらご主人?」、岡田「違います」。辻は佐知に名刺を渡して降りる(辻法律事務所)。佐知「私の好きな人でした」

(昔のシーンに)佐知と辻が付き合っていた。辻が「せめて襟巻きほしいなあ」と言ったので、百貨店で襟巻きを万引きした。捕まり派出所で「初めてではないだろう」と詰問される。外から見ていた辻は、姿を消す。佐知は「私を牢屋に入れてはいけません。私は悪くないのです」等朗々と何かに憑かれたように喋り捲る。(小説「燈篭」の一節です)
この様子を大谷が見ていた。大谷「私の知り合いです」。百貨店側「襟巻き代は返してもらいました」。佐知は放免される。

佐知「嘘をついてなぜ助けたのですか」、大谷「貴女が正しいと思ったから」「辻は貴女の恋人ですか」、佐知「今どうして好きになったか、分からなくなった」、この時は、「おやすみなさい」と言って分かれた。これがキッカケとなり、大谷と結婚した。

(元に戻る)自宅にて。大谷「さっちゃん、浮気でもしたのですか。着物まであつらえて」、佐知「女将さんからもらった」、大谷「男女の仲は近くて遠い」、佐知「岡田さん、方向が近い」、大谷「妻を寝取られる男」、佐知「私を信じて、どこまで疑うの」

椿屋に辻が来る。岡田「ここは煮込みが美味い」とすすめる。辻「今日、見合いしてね。銀行の頭取の娘」店が忙しく話しが出来ない。辻は「釣はいらない」といって出て行く。「君の顔を見たくなっただけ」と言って去る。

閉店後、佐知と岡田は電車で帰る。隣の車両から様子を窺う大谷。「それじや」と言って佐知は降りる。そのまま乗っている岡田と大谷。岡田は国分寺駅で降りる。大谷も降りる。岡田は線路を歩く。あとをつける大谷。「大谷さんですか」「岡田君ですか」と挨拶かわす。

岡田「少しでも長く奥さんといたいので、嘘をつきました」「生れて初めて、女の人を好きになりました」、大谷「一杯飲もう」と言って二人屋台で飲む。飲んだ勢いで、岡田「奥さんを下さい」

夜中に酔っ払った二人が帰ってくる。佐知は驚く。そのまま、3人は床につくが、佐知も岡田も寝付かれない。大谷は鼾をかいている。佐知がトイレに行く。そこで岡田と会う。岡田「僕、一番電車で帰ります」、佐知「そんな事したら、何かあったと大谷は疑う」という。岡田は佐知を抱き寄せキスする。岡田「すみません」「僕と一緒になって下さい」。佐知は奥の大谷が気がかりで部屋に戻ると、大谷はいなかった。佐知「大谷は見届けて、出て行った」と呟く。
翌朝、岡田は、僕が間違っていた、サヨナラと置手紙して帰っていた。

大谷は秋子のバーへ行く。大谷は少し喀血する(多分、結核か?)。秋子「また死にたくなった?」、大谷「私と付き合ってくれますか」、秋子「いいよ」。大谷と秋子のベットシーンが展開される。脇には「きりぎりす」の雑誌。(広末涼子のベットシーンが見物ですが、少し露出度が少ないですね)

大谷と秋子は、汽車に乗り谷川温泉へ行く。旅館では芸者をあげて最後の晩餐をする。大谷は、三味線に合わせて歌う。秋子「楽しいわ。こうして死ぬのは」

椿屋では、佐知の子が寝小便し、風呂に入れられている。佐知「父さんは、3日も帰って来ないね」

大谷と秋子は、谷川沿いを歩いて自殺の場所を探す。頃合の場所を見つけ、座って睡眠薬を飲む。秋子は初めてなので少な目、大谷は常用なので多目に飲む。そして、ウィスキーを持ち出し、互いに飲む。死ぬまで大変なので、念を入れて、大谷は帯を解き、一方を木に他方を自分の首に巻く。意識がなくなれば、下に落ちて首吊りになる仕掛けである。互いに睡魔が襲う。「グッドバイ」。(小説「姥捨」の一節です)
数分後、大谷は首吊り状態で意識が戻る。もがいて這い上がる。そこで温泉住民に救出される。

椿屋に警官が来る。佐知と警官は外へ出る。そこで大谷が心中したと告げられる。警官「ご主人は助かったが、殺人容疑で取調べ中」という。佐知は椿屋の電話を借りて、辻弁護士に電話する、「助けて下さい」。辻「僕の弁護料は高いですよ」と言って一方的に電話を切る。

佐知「あの人を引き取りに行かなくては」。子を女将さんに預ってもらい、汽車に乗り、水上警察署へ行く。面会室での二人の会話。佐知「おめでとう、それとも残念」、大谷「僕はどうしても死ねない」、佐知「女性はどなたですか」、大谷「知らない人だ」、佐知「心中されて、嘘つかれ、どこに愛があるの」「夫を女に取られた妻は惨め、でも生きて行けそう」、大谷「許して下さい」、佐知「帰ります」。警察署の廊下で、佐知と秋子はすれ違う。秋子は笑みを表す。そこに辻が来る。辻は「大谷を助けたいのですね」と佐知に聞く。佐知は頷く。佐知は心中現場へ行き、残った薬を見つける。死ぬってどういう事なのだろうと考える。

東京銀座の街頭で、佐知はパンパンからアメリカ製口紅を買う。口紅をつけて、佐知は辻法律事務所へ行く。佐知「金はありません」、辻「万引きの時、係りたくなくて、僕は逃げたのです」「君が欲しくなった」。身体で弁護料を支払った事を意味する着崩れた姿で、佐知は街頭へ出る。口紅を道脇に置く。その時、パンパンが米兵のジープに乗り、佐知に「グッドバイ」という。佐知は一呼吸おいて「グッドバイ」と叫ぶ。(小説「グッドバイ」は太宰の未完の遺作です)

佐知が椿屋に戻ると、すでに大谷が来ていた。大谷「何をしてきた?」、佐知「人に言えない事」、大谷「やっぱり、コキュに成り下がったか」(フランス語のコキュは、寝取られ男の意味)。椿屋夫婦に「佐知をよろしくお願いします」と言って大谷は出て行く。
佐知は追いかけて行く。大谷は女将さんから坊やにと貰った桜桃(サクランボ)を懐から出し食べる。佐知も一緒に食べ、種を二人は吐き出す(小説「桜桃」は子より親が大事という一節がある)

壁にもたれ、二人は手を握り「私達は生きてさえいれば、いい」と言ってENDになる。
ヴィヨンの妻3.jpg

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【太宰治の経歴】
本名は津島修治(1909~1948)、青森県北津軽の大地主の6男として誕生。
1930年、東京帝国大学文学部仏文学科入学。在学中、女給と投身自殺、自分だけ生き残る
1936年、内縁の小山初代と自殺未遂
1938年、石原美和子と結婚
1948年、愛人・山崎豊栄と入水心中。二人の遺体が見つかったのが誕生日の6月19日「桜桃忌」

【これから公開予定の太宰治の映画】
・「パンドラの匣(はこ)」2009年10月10日テアトル新宿から順次公開、冨永昌敬監督
・「斜陽」2010年6月公開予定、秋原正俊監督

【太宰治「二十世紀旗手」】タンポポについて
 私の欲していたもの、全世界ではなかった。百年の名声でもなかった。タンポポの花一輪の信頼が欲しくて、チサの葉一枚の慰めが欲しくて、一生を棒に振った。

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※昨日は、阪神の試合はなく。ヤクルトは横浜と戦いました。

横浜は4対2とリードしながら、8回に工藤投手を出し、1死も取れずに後退し、結局この回8失点し、ヤクルトが10対4で快勝しました。これで、3位阪神へ0.5差と迫りました。
何してんねん、横浜、工藤よ!・・・・阪神ファンの叫びです。
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